先週来春夏の展示会を見に東京へ行ってきました。行く前に届いた展示会の案内状を見てNEWブランドをチェックしていました。そこに1つ気になるクロージングブランドがありました。たまたまLEONの8月号にも紹介されていました。何をさておきスーツ屋アルバーノとしては、これはチェックせねばと、代理店のトレメッツォさんにアポなし強行訪問(8月にアポをとってあったのですが…。)
ブランド名は「タリアトーレ」。聞いたことはありましたが、実際の商品を見るのは初めてです。早速ジャケットを試着。(ジャケット好きには初めて手を通すこの瞬間がドキドキします。)おもわず息をのみました。「これはイイかも。」トキメキ!ジャケットのカタチ、デザイン、作りの個性と奥深さ…。一つ一つが違う顔を持ちます。
僕はいつもお客様にジャケットをラーメンに例えます。(パスタかピザにでもしろよって感じ?)
味はあっさり醤油?豚骨?豚骨醤油?京都風?麺は太いか細いか、ストレートか縮れているか?固さはどうか?トッピング、チャーシューは?とにかくスタイルは様々です。好みは人それぞれです。ただ本当好きか嫌いかです。自分の視点、感覚が全て。「タリアトーレ」。僕の体の感覚が受け入れました。現代的クラシコ。ボリオリタイプのモダンとクラシックの融合。
勿論ボリオリのスタイルとは違いますが、微妙なスタンス。ここのブランドらしさが少し理解できました。
僕がタリアトーレを気に入ったところは、①勿論ジャケットのスタイリング。ナポリ的ドクラシックモデル、アンコン楽ジャケモデル、コンケープショルダー、イタリアで人気モデル等巾広いスタイリングがある。
②ベストがウリ。このブランドの醍醐味は、他では不可能なベストが共に作れるところ。これは新しい。英国的紳士感と着回しが楽しめる。③ダブルのバランスが絶妙。前にも書きましたが、ダブルのバランス、顔つきって本当に多様化していて難しいです。ラベル巾、Vゾーン、ボタン位置、シルエット…。ここのダブルは、スタンダードだけど恰好良い。万人受けしそう。(若い方でもO.K)④素材の面白さとディティール(ボタン、襟裏仕様)の選択。素材の選び方ではかなり遊べそう。ボタンの選び方では、ディティールファン受け、女性受け確実。⑤プライス!安いにこしたことはありません。アルバーノが求めるプライスゾーン。
こういった感じが僕のファーストインプレッション。ボリオリ・ガイオラ、アルバーノ東西横綱に新参者登場か!しかし、ここまで絶賛しておいてなんですが、まだオーダーは入れていません。
ただ、その日ホテルへ帰ってから夜景を見ながら、妄想にしっかり出てきましたよ。タリアトーレ。
と、いう事は…。皆さんお察しの通りということで。
「ヨーロッパの路地裏」という番組が好きだ。斉藤由貴のホンワカしたナレーションも良い。この前はロンドンの路地裏、ノッティングヒルをやっていた。古いヨーロッパの路地裏にはドラマがある。何代も続く店とそこに長年通う人達との固い絆。シンボル的カフェでは毎日喜怒哀楽があり、いろんな人が思い思いに自分の時間を刻む。大きな広場にはマーケットが出て、意外な宝物と出会える。一本の通りが作る大きなコミュニティ。ブランドショップや大手チェーン店が立ち並ぶ華やかな表通りとは対照的。違った魅力。
毎回番組の終わりに言うセリフが好きだ。
「化粧をした表通りに真実はない。路地裏にこそ人生の全てがある。」
僕達の商店街も昔は表通りだった。もう過去の話だが…。大型駐車場を備えた郊外のショッピングモールとその周辺ロードサイドに表通りが移って久しい。
大都会はもちろん表通りはどこも同じだ。勝ち組チェーンストアが手をつなぎ通りを占領しているだけだ。今の社会はその状況を、その利便性を歓迎している。街だけではない。全てのものに利便性を求める時代だ。今はいいかもしれないけど、将来それが味気なく感じる時が来ると思う。覆水盆に返らず。本物、大切な物が知らず知らずに失われているのは確かだ。
話はそれたが、僕達の街も昔の表通りの賑わいを取り戻そうと、行政と手を組み努力はしている。それを望む気持ちも僕の心の片隅にはある。
でも、時代は変わった。ムリをする必要はない。この番組を見て思った。
僕達の街が目指すのは、路地裏だ。人間の温かい息づかい。ヨーロッパの路地裏の歴史には到底かなわないが、原点に返った人と人とのコミュニケーション。この街を愛してくれる人達が生活をエンジョイできるようなコミュニティを作ろう。時間がかかってもいい。小さな物語が始まり、それが大きく長く続いていく。日本にひとつしかない、僕達だけのオリジナルな路地裏だ。
それは、長年商いを続ける僕達のこだわりとストーリー、新しく街にできるショップ、施設の未来のストーリー、そして主役である路地裏を愛してくれる人達のストーリーの合作である。
昔からの老舗やライブハウス、ミニシアター、寄席、こだわりの飲食、これから出来る公共施設等。点と点が一本の線でつながることだ。
街は死なない。人の息づかいがある限り。古い頭の僕だけど、夢にはしたくない。まずは最初の一歩。僕の店からでも、もっともっとこだわっていこう。例えば洋服だけでなく、カフェも復活させてみようか。とにかくアルバーノからコミュニティを作ってみよう。
「化粧をした表通りに真実はない。路地裏にこそ僕達の夢と未来がある!」
どれくらいぶりだろう、泊りがけの旅行は。
先週連休を頂き箱根へ行ってきました。やっぱり旅はいいものです。単調な日常を離れ、知らない土地を訪れる。お気に入りの服に身を包み大きなバッグに好きな本、音楽…を詰め込み、電車を乗り継いでアテのない旅をする。憧れです。地図のない旅もいいですが、今回の旅は憧れの土地。ガイドブックとにらめっこし、コースを考えました。リゾート地箱根、見どころ満載ですね。2日じゃ回りきれません。
仙石原でガラスの森美術館、ラリック美術館とミュージアムめぐり。宮ノ下で老舗富士屋ホテルのレトロ感に酔いしれ、宿泊したのは強羅の宿。源泉かけ流しにこだわって選んだ大好きな温泉。和モダンな部屋は想像通り良かったです。
今回の初箱根。コースを考えていてお互い1か所どこを一番見たいか?という話になり、相棒は即座に「芦ノ湖!」。僕は昔から箱根と言えば、なぜか安藤広重の「箱根」の絵が出てくるんです。だから、僕は
ノスタルジックに「箱根八里の旧街道」となりコースは決まりました。
畑宿からの急所はバスに乗り、歴史のある甘酒茶屋へ。そこから江戸時代の旅人へタイムスリップです。昔の旅人に想いをはせ、箱根八里をひたすら歩きました。ひんやりとした空気。緑に包まれ苔むした石畳の上り坂が続きます。いい雰囲気で木漏れ日が揺れるいにしえの道は人影もなく、静寂の美に包まれていました。ちょっときつかったけど、僕がイメージした箱根がリアルに感じられ穏やかな気分でした。芦ノ湖が見えた時は、達成感でいっぱいでした。富士山が見えなかった事だけが心残りですが…。
富士と箱根と広重、北斎。小学生の時切手収集が流行っていました。今でも家のどこかにあるはずですが(最近見ていないけど。)僕も御多分にもれずハマりました。わかる人はわかるはずと思いますが、憧れのシリーズで「国際文通週間シリーズ」というのがありまして、北斎の大波と富士の有名な絵「神奈川沖裏波」や、広重の「箱根」がそのシリーズの中にありました。でも、高かった!小学生の小遣いでは、なかなか買える代物ではありませんでした。店に行っては眺め、切手の本を見ては憧れていました。自分の切手帳には入りませんでしたが、広重の「箱根」はどうしても加えたかったです。
1枚の切手と旅。僕には40年前に手に入れられなかった夢をようやく手に入れたような旅でした。