その日僕の気分は高ぶっていた。ある人と会う為に…。
僕達のビジネス。僕達の夢。これから目指す道。
東京へ着いて僕達が向かったのは、青山キラー通り。
ある人とは、GAIOLAの社長、ベネテッド・デ・ペトリロ氏だ。
今回は、ボリオリ・フェリージ・アマンのプレコレクションを見る予定だった。
ガイオラを扱うアルヴェスティのプレコレは、12月中旬の予定だった。が、ペトリロ氏がガイオラのプレゼンテーションの為来日しているということで、アルヴェスティの社長さんの計らいでペトリロ氏と会うことが出来た。
初対面のペトリロ氏は、180㎝を超える長身で優しい笑顔で迎えてくれた。ブルーの太いチョークストライプのピークドラペル、2ボタンの軽やかなスーツをジャストフィットで颯爽と着ていた。そのスーツ姿の雰囲気にナポリの匂いを感じた。
「流石!」その恰好良さにノックアウト。ちょっと興奮気味の僕は饒舌になり、いろんな質問が次から次と飛び出した。
「僕達は田舎の小さな店だが、スーツ・ジャケットスタイルにこだわりそれを上質かつ適正プライスで、沢山の方に紹介していくことに夢を持っている。ガイオラという素晴らしいナポリクロージングと出会えた事で、夢に向かって一歩進めたような気がして嬉しい。」と伝えた。ペトリロ氏も喜んでくれた。
「私達もまだスタートして間もない会社だ。少人数でやっているから大変だが、商いも少しずつ軌道にのってきている。これも家族の支えがあってこそだ。ブランドの知名度が高くないので、そんなに高いプライスではだせないが、服作りに関してはハンド部分の工程等ナポリの仕立てにこだわっている。適正なプライスでだしていると思う。むしろ、他のブランドは高くつけすぎてるんじゃないかな。貴店のように最初からずっとやってくれている店には、大変感謝している。なんでもいいから思った事があったら遠慮なく言ってくれ。」と言ってくれた。
アルヴェスティの社長さんも「今日のペトリロは、すごく穏やかで上機嫌だよ。いつもと全然違う。」
洋服・ピッティの話から、ガイオラのネームを地元民しか知らない小さい湾の名前からとった話やその美しい風景写真。一緒に来日していた27歳のご子息、ファミリーの話等…。僕には久し振りに充実した時間だった。
正直最近好きなスーツ・ジャケットに対する熱い想い、刺激に欠けていた気がする。服をモノとして見て、少しビジネス志向に走っているのではと感じていた。僕達は洋服屋であり、スーツ屋であるということ。服を楽しむことを忘れていたのではないか?ということをペトリロ氏と話していて思った。
ガイオラというファクトリーブランドの今のスタンス。ペトリロ氏のこれからの夢。なんか僕には、ずっと新鮮に感じられ、すごくうれしく思えた。4時間という時間がアッという間に過ぎた。その後もずっと僕の脳裏からガイオラの服・スタイルが離れない。
小さくてもいい。本当にこのブランドは、ネットビジネス路線にのって欲しくない。僕が心をこめて一着一着大切に仕入れて、僕のやり方でセールスしていく。僕もそんなに若くない。僕が商売を続ける限り、現役である限り、この服と心中していくと何度も何度も心の中で呟いていた。