「シンプル」。ありきたりの言葉だ。「ミニマル」。あまり使わないが、「シンプル」と意味はよく似ている。辞書では、「シンプル」は単純・簡素。「ミニマル」は最小限。と書いてある。
この2つの言葉の奥には深い意味がある。ミニマリズム(ミニマル主義)。美術・建築・音楽の世界でよく使われるが、ファッションにも当然存在する。服・靴・鞄…。「ミニマル」にはモードの思想があり、「シンプル」には思想自体がない。わかりやすく言うと、余計なものを足さなかったのが「シンプル」で、必要最小限のものを残し、後をそぎ落としていった結果が「ミニマル」になるのかな。無印やユニクロは出発点は「シンプル」であるが、「ミニマル」ではない。しかし、ホント意味での「シンプル」には到達していない。
「シンプル」とは最も難しい美意識であり、「ミニマル」を突き詰めた形である。わかりやすくと言いつつもなんかややこしくなってきたなぁ。
最近シーラップのシンプルなコートを紹介していて思うのだが、ここのコートにミニマルな美を感じてならない。シーラップのステンカラー、トレンチ、ピーコート等の一見シンプルなデザインだが、決して簡素なものではない。最終的にミニマルに帰省した思想がその中に詰まっているように思う。時代の美を独創性で切り取るデザイナーのフレキシブルな要求を忠実に形に作り上げてきた。職人集団としての伝統的技術。彼らは裏方であり、黒幕である。
ジル・サンダーは、究極のミニマリズムを完成させるのにシーラップを選んだ。何故ヨーロッパの名だたるデザイナーは、シーラップを指名するのか?
イタリア・英国にコートファクトリーは沢山ある。シーラップの仕事は、あくまで自社ブランドを売る事ではなく、デザイナーのクリエイティヴな発想を形にする為に研究・挑戦し続けているのである。イタリアンモダンの斬新なデザインから古典的な様式美まであらゆるスタイルを、熟練した技術とハイテク技術を融合し同じスタンスで作り上げる。
シーラップのコートコレクションの一つ一つにはデザイナーの陰が見え隠れする。それで、当然ミニマルな美を追求したシンプルなコートが完成する訳である。
そして、他のコートファクトリーでは考えられないことであるが、古いモデル・アーカイヴのものであっても僕達小さなショップの為に少量であっても生産してくれる。どんなクライアントであっても、分け隔てなく生産してくれる。
「いろいろなコートを作る事」。これがコート職人集団としてのプライドではないだろうか。
僕達がオーダーしているモデルは、シーラップが蓄積してきた技術が結集してできた究極のシンプルものであると確信している。