音楽の聴き方は十人十色。
僕は、メロディで聴くタイプだ。ラップやヒップホップは馴染めないが、日本のフォークは別。歌詞が勝負だ。「何に対して何を歌うか」がフォークのメッセージ。
だが、このシンガーの場合は、ちょっと違う。歌われた「言葉」そのものが聴き手のイメージをふくらませ、それぞれの情景を絵画の様に心に写し出す。フォークの様なメッセージの押しつけがましさがない。
温かみのある丸い声質。「言葉」の余分な艶を消して、丸裸にしてしまうような声。サビだらけで手垢のついたポンコツな「言葉」を磨き上げ、パズルのように重ね合わせていく。「言葉」あやつる職人。
そして、彼の「言葉」は、当たり前の日常生活を送る僕の胸ぐらをつかみ、グラグラとゆすってくる。
友部正人。知る人ぞ知る伝説のシンガー。詩人。日本のボブ・ディランと人は言う。
友部が僕達の商店街にやってきた。サプライズ。2月11日。アルバーノから100m離れたカフェでLIVEがあった。30人近いオーディエンスを前にギター1本で、友部は「言葉」を投げかけてくる。余計な装飾、華やかさは邪魔だ、友部の「言葉」には。生で聴く友部の詞はは、CDの何倍も重みがあり、僕の心につきささった。
友部のことを教えてくれたのは、20年付き合いのある代理店のFさん。いつものことだが、ショールームで洋服チェックをしていると、横からCDを持ってあらわれ、「これ結構良かったよ。知ってる?吉祥寺でLIVEみてきたんだ。」Fさんとはもう洋服そっちのけで、お決まりのディープな音楽談義。
Fさんの得意とするのは、日本のフォーク周辺。僕も知らないアーティストの名が次から次へと飛び出してくる。「長谷川さんならハマるかも。」数年前に友部のCDを沢山借りた。
最初は訳わからず流していたが、聴きこんでいるうちにいつの間にか友部ワールドに引き込まれていた。歌詞は難解だ。フォークソングの様に口ずさめるものはない。ただ、シンプルな詩、「言葉」が心の中にボヤっとアートを描き始めた。
“ふと後を振り返ると そこには夕焼けがありました
本当に何年ぶりのこと そこには夕焼けがありました
あれからどの位たったのか…”
LIVEび終盤、僕の大好きな名曲「一本道」が始まった。
一言一言「言葉」をかみしめながら、僕の瞳はうるんでいた。
LIVEは終わり、写真を撮りサインをもらった。
拓郎、陽水メジャーなフォークソングは、ストレートに心に響く。
友部はフォークと言うより、詩の朗読、ポエトリーリーディングの世界。心の中に音、映像を写し出そう。
彼の詞をイメージするには、まだまだ時間がかかるだろう。これからの人生、友部の音楽を聴いて想像力を研ぎ澄ませていきたい。そして、僕の心の中で、沢山の新しい作品が生まれてくるとうれしい。
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