先週は展示会出張があり、秋冬の商品構成、ビジネス形態の変化等、いろんな事が頭の中で交錯した。
今まで付き合ってきたブランドの今後。新しい話題のブランドからの誘惑。NEWブランドとの出会い。
いまだ整理ができていない部分も多いけど、時は待ってくれません。
ある程度イメージを描いて臨んだ展示会。思ったように事は運ばない。しょうがないというあきらめと苛立ち。
セレクトショップというビジネススタイルと、ブランド無視して我が道をいく勇気。自分本位とお客様目線。年に2度はそんな自問自答を繰り返す。
何年経験を重ねようが、慣れることもなければ、そこに真実もない。自分の不安定な確信と身勝手なバランス感覚に頼るしかない。楽しむ事はモットーだが、遊んでる訳じゃない。
モチロン主役はお客様であり、いかにスリルとサスペンスを楽しんでもらえるか。その為にどんなネタを仕掛けられるかが腕のみせどころだ。
「あの人気ブランドは扱ってないのですか?」 「前に買ったのが気に入ってるんですが、あれはもう入らないのですか?」 皆様の意見を全て受け入れることはできない。
ネットショップをやる予定もないし、どこも扱う人気ブランドとの付き合い方には慎重になる。今回もそこが悩みどころだ。
東京へ着いて一番に駆けつけた代理店。新しいブランドの見極めだ。とにかく新しいものは常連ブランドより、先にみなければならない。仕入れのワクを作ってないから。うれしい誤算を期待する。電話で聞いてたけど、実際みてみないと。日本人モデルに作り直したそう。
「?」 正直トキメキは感じなかった。プライスがプライスだからしょうがないか。
試着しながら、横のハンガーに並ぶジャケット、スーツが気になっていた。ナポリのフルハンド。サルトリア。当店には敷居が高いのはわかっている。小さいサイズがあったので、試しに羽織ってみた。
「ウ…。」(しばしの沈黙)。言葉が出ない。鏡越しに映る自分のジャケット姿にフリーズ。
「ざわ、ざわ、ざわ…。」血の流れがスピードアップした。
「なんだこれはっ!」これがナポリフルハンドのスゴさか!
「違う、違う、違うぞ…。」これは素晴らしい。ナポリサルト、初めて羽織った訳じゃない。でも、今まで大きいサイズばかりでピンとこなかったのか。
今まで着てきたものとは明らかに違う。興奮状態でプライスを聞いた。
「ウ~ン。」確かに安くはない。僕の目線からははずれている。
「でも、冷静に考えてみろ。ナポリのフルハンドの服だぜ、としたらそんなにはずれているか?今売れているイタリアンクロージングブランド、少しいい生地を選べばその位はするぜ。メジャーなナポリサルトのプライスと比べてみろ。安くないかい。自分のカラをヤブれよ。変わることも必要なんだよ。」
どこからともなくそんな声がした。
ここ数年、ようやくナポリサルトの雰囲気をデ・ペトリロで味わった。ただ、それは本物のサルトと言えるものでは当然ない。サルトへの入り口に到達したところだ。それはそれで、僕の目線に入る大きな宝物だ。
でも、その雰囲気を味わってしまうと、もう少し中をのぞいてみたくなるものだ。上を見ると限りなく高いだろう。しかし、この服との出会いが、僕を一歩ディープな世界に手招きしているように感じた。「一期一会」なのかな。
その後、昨秋から話題のあのブランドを見に行った。メンズファッションに革命を起こしたあの人がデザインするんだもの。僕が嫌いな訳がない。流石いい線をついている。
先のナポリサルトの一着とプライスがほぼ同じくらい。どちらも全く違う魅力がある。
ただ、今 新しい挑戦をするとしたら話題性に走るより、無名のサルトに賭けてみようか。